【バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会に寄せて】
全てのチェロ作品の頂点に君臨すると言っても過言ではない、バッハの無伴奏チェロ組曲。長らく紛失されていた作品でしたが、港のそばの古い楽譜屋で、ボロボロになったチェロ組曲の譜面を当時まだ13歳だった大チェリスト、パブロ・カザルスが偶然発見したことから再び歴史が動き出しました。彼はこの組曲についてこう述べています。
「この作品はバッハの本質そのもので、バッハは音楽の本質そのものだ。」
カザルスの語る通り、この6つの無伴奏チェロ組曲は独奏であるにも関わらず常に多声的で、楽曲のありとあらゆる箇所に隠されたメロディが存在し、様々な解釈が可能なフレーズに満ちていて、単純に見えて恐ろしく複雑な構造を持っています。いつまでも正解が見出せず、チェリストは生涯をかけて対峙しなければならない作品です。
この演奏会は私にとって初の一挙全曲上演となります。今の私が演奏するバッハの音楽を、最高のコンサートホールで皆様にお聴きいただけることを楽しみにしています。
伊藤悠貴